雨を匂う

 すると、ある日突然、雨が生ぬるく匂い始めた。「あ、夕立が来る」と、思った。

 庭木を叩く雨粒が、今までとはちがう音に聞こえた。その直後、あたりにムウッと土の匂いがたちこめた。

 それまでは、雨は「空から落ちてくる水」でしかなく、匂いなどなかった。土の匂いもしなかった。私は、ガラス瓶の中から外を眺めているようなものだった。そのガラスの覆いが取れて、季節が「匂い」や「音」という五感にうったえ始めた。自分は、生まれた水辺の匂いを嗅ぎ分ける一匹のカエルのような季節の生きものなのだということを思い出した。

 

 

 

  『日日是好日 −お茶が教えてくれた15のしあわせー 』 森下典子 著

    まえがきより

 

 

 

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雨の季節になりました。

 

黒木華、樹木希林で映画化されました原作、森下典子のエッセイからの1シーン。

 

このエッセイは茶道をとおして、つらいこと、うれしいことが全身で感じれるような文章で、まるで茶室にいるような、そこでの匂いや手触りが感じられるような世界に浸れます。

 

匂いは記憶に直結しますね。匂いである日の景色が蘇ることがあります。どんなに古い記憶でも。

 

自分のまわりの景色を音を匂いを五感をつかって感じたいと、雨の続く季節になると思います。

 

 

毎日がよい日。雨の日は、雨を聴くこと。いま、この時を生きる歓び―――。

  本の帯より

 

 

 

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